気づいたら田んぼ遊びが始まっている。
沼田さん渡瀬さんは笛を吹き、鎌田さんは踊る。
そして、しんじくんが、水たまりに座り込んでいる。
泥にまみれてカエルのように。
最高の表情を見せてくれている、しんじくん。
裸足になって気持ちよさを味わう大人達では、
理性が邪魔をして踏み込めない一歩を、 あっさりと超えてしまい、
選ばれた者だけが味わえる恍惚感を一人味わうしんじくん。
周りで踊りに入った私は一線を越えられない虚しさを少し感じる。
笛の音、風の音、草が揺れる音、 畑に足を取られる音、
気持ち良すぎて動こうとしないしんじくん。
よほど居心地が良いのだろう。
帰りの時間が迫ってきて、 またもや頭の支配に虚しさを感じながら、
しんじ君を泥の沼から抜き出す。
ホースの水で泥を洗い流している時、
しんじ君のなんて寂しそうな顔。
水の冷たさで寒イボが立ち、震えている。
心地よさから急に生活に引き戻される。
おやつを食べ、巨大竹の子やレタスをお土産に頂く。
からだの中に瑞々しい何かが満たされて、
皆、素晴らしい笑顔で農園を後にした。
増渕は、「普段のような変なお腹の空き方をしなかった。
お弁当も食べ過ぎずに、適当な所で止めることが出来た。
“カスミを食べる”ということかな」と言っていた。
確かに、そんな感覚。
“カスミ”かどうかは分からないが、なぜか満たされ、
「もっともっと」という欲望が少ない。
“カスミ”と共に口に入るビールとたばこが美味い。(欲望ですな)
おとあそび工房、小林ファームさん、それぞれの抱える問題に、
答えは出ないかもしれない。
がそんな事を考えなくて、こんなにも楽しく、活き活きと遊べる。
次回の公演での野菜の協力をお願いした小林ファームさん。
芽が出るかどうか分からない。
でも、何かの種は植えることができたのかもしれない。
そんなボンヤリした種から、楽しい芽が出るといいな。